🎯 結論(先に要点)
介護記録の基本は「5W1H+客観的事実」です。見たまま・聞いたままの事実を書き、自分の解釈や感情と区別することが最重要ポイント。「不穏」「いつも通り」などの曖昧な言葉は具体的な行動描写に置き換えます。記録はケアの質・チームの情報共有・職員自身を守る証拠の3つの役割を持つ、介護職の重要スキルです。
介護記録は、介護職が毎日必ず行う業務でありながら、書き方を体系的に教わる機会が少ない仕事のひとつです。
「何を書けばいいか分からない」「時間がかかる」「先輩に直される」という悩みは、新人からベテランまで共通しています。
しかし、記録には明確な「型」があり、それを覚えれば誰でも早く正確に書けるようになります。
この記事では、介護現場で10年間、自分でも書き、新人指導でも教えてきた筆者が、次の内容を解説します。
- 介護記録が持つ3つの役割
- 基本の型「5W1H+客観的事実」
- 食事・入浴・排泄・夜間など場面別の例文
- NG表現と言い換えの一覧
- 記録を早く書くコツと事故記録の書き方
介護現場で10年勤務した介護福祉士・社会福祉士の有資格者。特別養護老人ホームやデイサービスで介護職から現場リーダーまで経験し、採用・面接にも携わってきました。現場と採用の両側の視点で解説します。
介護記録は何のために書くのか|3つの役割

書き方のテクニックの前に、記録が「何のためにあるのか」を押さえると、書くべき内容が自然と見えてきます。
役割1:チームの情報共有
介護は24時間交代制のチームケアです。
日勤者が書いた記録を夜勤者が読み、夜勤帯の記録を翌日の日勤者が読むことで、切れ目のないケアが成立します。
あなたの記録は「未来の時間帯に働く仲間へ向けた申し送り」です。
役割2:ケアの質の向上
記録が蓄積されると、「食事量が下がってきている」「夜間の覚醒が増えている」といった変化に気づけます。
ケアマネジャーがケアプランを見直す際も、日々の記録が判断材料になります。
役割3:職員と施設を守る証拠
事故やトラブルが起きたとき、「適切なケアをしていたこと」を示せるのは記録だけです。
記録がなければ、どれだけ丁寧なケアをしていても、それを証明する手段がありません。
介護サービスの記録は、運営基準により完結の日から2年間の保存が求められ、自治体の条例では5年間と定められている場合もあります。それだけ公的に重要な書類だということです。
つまり記録は「業務の付け足し」ではなく、ケアの一部であり、あなた自身を守る盾でもあるのです。
基本の型は「5W1H+客観的事実」

介護記録の基本の型は、5W1Hに沿って客観的事実を書くことです。
| 要素 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| When(いつ) | 時刻・時間帯 | 14時30分ごろ |
| Where(どこで) | 場所 | 食堂のテーブル席で |
| Who(誰が) | 利用者・関わった職員 | Aさんが |
| What(何を) | 起きたこと・行ったケア | 車いすから立ち上がろうとされた |
| Why(なぜ) | 本人の発言など根拠 | 「トイレに行きたい」と話される |
| How(どのように) | 対応と結果 | 職員が付き添いトイレ誘導。排尿あり |
そして最も重要なのが、「客観的事実」と「主観(解釈・感想)」を区別することです。
客観的事実とは、カメラに写ること・録音されることです。
主観とは、それを見たあなたの頭の中に浮かんだ解釈です。
主観的な記録:「不穏だった」
客観的な記録:「20時ごろ、廊下を行き来しながら『家に帰る』と大きな声で繰り返される」
「不穏」はあなたの解釈であり、読んだ人によってイメージがバラバラになります。行動と発言をそのまま書けば、誰が読んでも同じ場面を再現できます。
本人の発言は「」(かぎかっこ)でそのまま書くのが原則です。
聞き取れた言葉をそのまま残すことで、記録の証拠としての価値も高まります。
解釈を書きたい場合は、「〜と話されることから、◯◯の可能性も考えられる」のように、事実と推測を分けて書きましょう。
場面別の記録例文|食事・入浴・排泄・夜間

現場でよく書く場面ごとに、そのまま使える例文を紹介します。
【食事】
「昼食は主食10割、副食8割摂取。むせ込みなし。『今日の魚はおいしいね』と笑顔で話される。食後の水分はお茶150ml摂取。」
食事記録のポイントは、摂取量・むせ込みの有無・本人の様子の3点セットです。
嚥下の状態は誤嚥性肺炎の早期発見につながるため、「むせ込みなし」も立派な情報になります。
【入浴】
「一般浴にて入浴。洗身・洗髪は一部介助、背部のみ職員が実施。右下腿に直径2cmほどの内出血様の変色を発見し、看護師に報告。本人に痛みの訴えなし。」
入浴は全身の皮膚を観察できる貴重な機会です。
皮膚トラブルを発見した場合は、部位・大きさ・色・本人の訴え・報告先まで書きます。
【排泄】
「10時、トイレ誘導にて排尿あり。14時、パッド内に多量の排尿あり交換。排便は3日間なし、看護師に報告し下剤の調整を検討との返答。」
排泄は健康状態のバロメーターであり、回数・量・性状が観察ポイントです。
【夜間】
「22時、23時、1時の巡視時は臥床され、寝息が聞かれる。3時の巡視時に覚醒しており『眠れない』と話されるため、温かいお茶を提供。3時30分に再度訪室すると入眠されている。」
夜間帯は「眠っていた」で済ませず、巡視した時刻ごとの様子を書くと、睡眠パターンの変化に気づけます。
どの場面でも共通するのは、数字(量・時刻・回数)と本人の言葉を入れると記録が具体的になるということです。
NG表現と言い換え一覧

介護記録には、避けるべき表現がいくつかあります。
よくあるNG表現と、その言い換え例を一覧にまとめました。
| NG表現 | なぜNGか | 言い換え例 |
|---|---|---|
| 不穏 | 解釈であり人により意味が違う | 「大声を出しながら廊下を歩き回られる」など行動を具体的に |
| 暴言を吐く | 評価的・具体性がない | 「『触るな』と強い口調で言われる」と発言をそのまま |
| いつも通り | 情報量ゼロ | 「朝食は全量摂取、表情穏やか」など具体的に |
| 様子を見る | 何を見るのか不明 | 「発赤の拡大がないか、次回入浴時に確認する」 |
| 〜してあげた | 上下関係を感じさせる | 「〜を介助した」「〜していただいた」 |
| 認知が進んだ | 「認知」は誤用・評価的 | 「日付を尋ねる回数が先週より増えている」など事実を |
| 勝手に〜する | 非難のニュアンス | 「職員が見守りに入る前に、ご自身で立ち上がられた」 |
共通するのは、評価・非難・曖昧さを排除して、行動と発言の描写に置き換えるという原則です。
介護記録は、本人や家族から開示請求があれば見せる公的な書類です。
「家族が読んでも不快にならないか」を基準にすると、自然と適切な表現になります。
記録を早く書く5つのコツ

記録の質を保ちながらスピードを上げるコツを5つ紹介します。
コツ1:ケアの直後にメモを取る
記憶は数時間で曖昧になり、思い出す時間が記録を遅くする最大の原因です。
ポケットのメモ帳に時刻と単語だけ書いておけば、清書は数分で終わります。
コツ2:自分の「定型文」を持つ
食事・入浴・排泄など、場面ごとの基本形を頭に入れておき、変化があった部分だけ差し替えます。
コツ3:観察ポイントを先に決めておく
「今日はAさんの食事のむせ込みを見る」と決めてからケアに入ると、書く内容に迷いません。
申し送りやケアプランの短期目標が、観察ポイントのヒントになります。
コツ4:迷ったら「事実だけ」に絞る
うまい文章を書こうとする必要はありません。
時刻・行動・発言・対応・結果が入っていれば、記録として十分合格です。
コツ5:先輩の記録を読む
自分の施設で「読みやすい」と感じる先輩の記録は、最高のお手本です。
表現のストックが増えるほど、書くスピードは上がります。
記録ソフトの定型文機能やテンプレート機能があれば積極的に使いましょう。ただし定型文の貼り付けだけで済ませず、その日ならではの様子を一文加えることが、記録の価値を保つポイントです。
事故・ヒヤリハット記録の書き方

転倒や誤薬などの事故、およびヒヤリハットの記録は、通常の記録以上に正確さが求められます。
事故記録で最も大切な原則は、「発見時の状態」と「推測」を明確に分けることです。
NG:「Bさんがベッドから転落した。」(転落の瞬間を見ていないのに断定している)
OK:「21時の巡視時、Bさんがベッド脇の床に臀部をつけて座り込んでいるところを発見。『下りようとして滑った』と話される。」
見ていない瞬間を断定して書くと、事実と異なる可能性があり、後の検証を誤らせます。
事故記録に入れるべき要素は次のとおりです。
①発見の時刻と状況、②本人の状態(外傷・痛みの訴え・バイタルサイン)、③本人の発言、④実施した対応と報告先、⑤その後の経過観察の内容です。
対応の時系列も「21時05分、看護師に報告。21時15分、看護師が観察しバイタル測定」のように時刻付きで残します。
ヒヤリハットは「事故にならなかった気づき」であり、書いた人が責められるものではありません。
むしろヒヤリハットの報告が多い職場ほど、大きな事故を防ぐ力があります。
「報告書を書くのは罰ではなく、仲間への情報提供」という意識で、気づいたことを積極的に残しましょう。
よくある質問

介護記録に主観は絶対に書いてはいけないのですか?
事実と区別されていれば、専門職としての気づきを書くこと自体は問題ありません。「『家に帰る』と繰り返される(夕方に多く、日没後は落ち着かれる傾向)」のように、事実を先に書き、傾向や推測は括弧書きや「〜と考えられる」で区別するのがコツです。NGなのは「不穏」「わがまま」のような評価だけを書くことです。
本人の発言はそのまま書くべきですか?方言や乱暴な言葉でも?
原則としてそのまま「」で記録します。発言は重要な客観的事実であり、言い換えると情報が変わってしまうためです。乱暴な言葉であっても、それ自体が本人の状態を示す大切な情報になります。ただし前後の状況(きっかけや対応)もセットで書くと、単なる悪印象の記録になりません。
記録を書き間違えたときはどう訂正すればいいですか?
手書きの場合は修正液や塗りつぶしは使わず、二重線を引いて訂正印を押し、正しい内容を書き直すのが基本です。元の記載が読める状態を保つことで、改ざんを疑われない訂正になります。電子記録の場合は施設の記録システムの訂正手順(修正履歴が残る方法)に従ってください。
「様子観察」と書くのはなぜダメなのですか?
「何を・いつまで・どうなったら報告するか」が伝わらないためです。「右膝の腫れが引くか、明日の朝まで1時間ごとに確認。腫れの拡大や痛みの訴えがあれば看護師に報告」のように、観察する項目・頻度・報告基準まで書くと、次の勤務者がそのまま動ける記録になります。
記録の保存期間はどれくらいですか?
介護サービスの記録は、国の運営基準では完結の日から2年間の保存が求められています。ただし自治体の条例で5年間と定められている場合も多く、介護報酬の返還請求への備えから実務上5年保存とする施設が一般的です。自分の施設のルールを確認しておきましょう。
まとめ|記録の型を覚えれば、仕事はもっと楽になる

介護記録は、チームの情報共有・ケアの質の向上・職員自身を守る証拠という3つの役割を持つ、ケアの一部です。
基本の型は「5W1H+客観的事実」で、カメラに写ること・録音されることを書き、解釈と区別するのが最大のポイントです。
「不穏」「いつも通り」などの曖昧な表現は、行動と発言の具体的な描写に置き換えましょう。
ケア直後のメモ、自分の定型文、観察ポイントの事前設定で、記録のスピードは確実に上がります。
記録に自信がつくと、申し送りも報告も的確になり、チームからの信頼も高まります。
今日の記録から、まずは「本人の言葉を1つ入れる」ことから始めてみてください。