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認知症ケアの基本|BPSD(行動・心理症状)への対応の考え方を10年介護経験者が解説

認知症ケアの基本|BPSD(行動・心理症状)への対応の考え方を10年介護経験者が解説 介護福祉士

🎯 結論(先に要点)

認知症ケアの基本は、記憶障害などの「中核症状」と、妄想・帰宅願望・介護拒否などの「BPSD(行動・心理症状)」を分けて考えることです。BPSDは本人なりの理由がある反応であり、原因(不安・体調・環境・関わり方)を探して取り除くのが対応の軸になります。この記事では、否定しない・急がせないなどの基本原則と、もの盗られ妄想・帰宅願望・入浴拒否の場面別対応、やってはいけないNG対応までを解説します。

相談者

相談者
認知症の利用者さんに「財布を盗ったでしょう」と言われてしまいました。私は何もしていないのに…。どう対応すればよかったのでしょうか?
10年介護経験者

10年経験者
つらかったですね。でもそれはあなたが悪いのではなく、認知症の症状のひとつです。実は「盗られた」と訴える背景には、本人なりの不安があります。症状の仕組みと対応の考え方を、順番に整理しましょう。

認知症ケアは、介護の仕事の中でも「正解が見えにくい」領域です。

同じ声かけでも、うまくいく日といかない日があります。

だからこそ、テクニックの暗記ではなく「考え方の軸」を持つことが大切です。

軸があれば、初めて出会う場面でも対応を組み立てられます。

🎯 この記事でわかること

  • 中核症状とBPSDの違いが分かる
  • BPSDを「原因のある反応」として捉える考え方が分かる
  • もの盗られ妄想・帰宅願望・入浴拒否の場面別対応が分かる
  • やってはいけないNG対応と、チームでの支え方が分かる
✍️ この記事を書いた人
介護現場で10年勤務した介護福祉士・社会福祉士の有資格者。特別養護老人ホームやデイサービスで介護職から現場リーダーまで経験し、採用・面接にも携わってきました。現場と採用の両側の視点で解説します。

認知症ケアの大前提|中核症状とBPSDを分けて考える

中核症状とBPSDを分けて考える

認知症ケアで最初に押さえるべきは、症状の分類です。

認知症の症状は、大きく2つに分けられます。

1つ目が中核症状です。

記憶障害、時間や場所が分からなくなる見当識障害、段取りが組めなくなる実行機能障害など。

脳の機能低下によって直接起こる症状で、認知症であれば誰にでも現れます。

2つ目がBPSD(行動・心理症状)です。

もの盗られ妄想、帰宅願望、介護拒否、暴言、不安、抑うつなど。

こちらは中核症状を土台に、体調・環境・関わり方などが重なって現れる症状です。

この区別がなぜ大事かというと、対応できる余地がまったく違うからです。

中核症状そのものを介護の関わりで消すことはできません。

しかしBPSDは、要因を整えることで軽くできる可能性がある症状です。

「どうにもできない症状」と「関わりで変わり得る症状」を分けることが、ケアの出発点になります。

もうひとつ大事なのは、「性格が悪くなった」のではなく「症状が出ている」と捉え直すことです。

攻撃的な言葉を人格として受け取ると、こちらの心が持ちません。

症状として距離を取って眺められるようになると、対応の選択肢が見えてきます。

BPSDは「原因のある反応」という考え方

BPSDは「原因のある反応」

BPSDへの対応の軸は、たったひとつです。

「困った行動」ではなく「本人が困っている合図」として見ること。

想像してみてください。

気づいたら知らない場所にいて、周りの人が誰か分からず、自分の物がどこにあるかも分からない。

その状況なら、誰だって不安になり、家に帰りたくなり、物を盗られたと疑いたくもなります。

BPSDの多くは、認知症の本人から見れば筋の通った反応なのです。

だから対応の手順は、行動を止めることではなく、原因を探すことから始まります。

原因は大きく4つの箱で探すと整理しやすいです。

①体調の箱:痛み、便秘、脱水、睡眠不足、薬の影響。

②環境の箱:騒がしさ、まぶしさ、慣れない場所、退屈。

③関わりの箱:急かされた、否定された、子ども扱いされた。

④気持ちの箱:不安、寂しさ、役割を失った喪失感。

行動の前に何があったかを思い返すと、たいてい4つの箱のどれかにヒントがあります。

たとえば、夜間にそわそわと歩き回る利用者がいたとします。

行動だけ見ると「不穏」ですが、原因を探すと「トイレに行きたいが場所が分からない」だけだった、ということはよくあります。

廊下の照明を少し明るくし、トイレの表示を大きくしたら夜間の歩き回りが減った。

そんな「原因にアプローチしたら行動が変わった」経験を重ねると、BPSDの見え方が変わっていきます。

対応の基本3原則|否定しない・急がせない・環境を整える

対応の基本3原則

場面別の対応に入る前に、すべてに共通する3原則を押さえます。

原則1:否定しない

本人にとって、その世界は事実です。

「違いますよ」と訂正するほど、不安と不信が深まります。

事実の訂正より、気持ちの安心を優先します。

原則2:急がせない

認知症の人は、情報の処理に時間がかかります。

一度にひとつのことを、短い言葉で、ゆっくり伝える。

返事を待つ「間」も、大事なケアの一部です。

あわせて、近づき方にもコツがあります。

背後や真横から急に声をかけると驚かせてしまうので、正面からゆっくり近づき、視線の高さを合わせてから話し始めます。

言葉より先に、表情と姿勢で「敵ではない」ことを伝えるイメージです。

原則3:環境を整える

言葉での対応より、環境の調整のほうが効くことは多いです。

騒がしいテレビを消す、夕方の照明を明るくする、落ち着ける席を決める。

本人が安心できる環境は、BPSDの予防そのものになります。

💡 合言葉
「行動を直す」のではなく「安心を増やす」。安心が増えるとBPSDは自然に減っていきます。

場面別①「ものを盗られた」と言われたら

場面別①もの盗られ妄想

もの盗られ妄想は、BPSDの中でも職員の心が削られやすい症状です。

まず知っておいてほしいのは、身近で介護してくれる人ほど疑われやすいという特徴です。

疑われたことは、あなたの介護が悪い証拠ではありません。

対応の手順は3段階です。

第一に、否定も肯定もせず、気持ちを受け止めます。

「財布が見当たらないんですね。それは心配ですね」

盗られたかどうかの議論はせず、「困っている事実」に寄り添います。

第二に、一緒に探します。

探す行為そのものが「味方でいてくれる」という安心になります。

見つけたときは、本人が自分で見つけられるようにさりげなく誘導すると、恥をかかせずに済みます。

第三に、関心を別の活動にゆるやかに移します。

お茶の時間や好きな話題など、安心できる時間につなげて区切りをつけます。

そして職員側のケアも忘れずに。

疑われてつらかった気持ちは、ため込まずチームで共有してください。

チームとしても「疑われた職員を責めない」を共通ルールにしておくことが大切です。

誰が対応しても起こり得る症状だと全員が分かっていれば、犯人探しのような空気は生まれません。

場面別②「家に帰ります」と言われたら

場面別②帰宅願望

夕方になると玄関へ向かう、いわゆる帰宅願望。

これも「問題行動」ではなく、意味のある行動です。

本人が帰ろうとしている「家」は、今の自宅ではないことも多くあります。

子育てをしていた頃の家、夕飯を作らなければいけなかった時代の役割。

「帰りたい」の中身は、安心できる場所と役割への欲求であることが多いのです。

対応の第一歩は、行き先を塞がないことです。

玄関の前に立ちはだかって止めると、不安は敵意に変わります。

「お帰りですか。お茶を一杯どうぞ、支度しますから」と、いったん同じ方向を向きます。

歩きながら話を聞くだけで気持ちが落ち着くことも多いです。

そのうえで、役割や心地よい時間につなげます。

「帰る前に、これを手伝っていただけますか」と頼られる場面を作る。

夕方に好きな音楽や飲み物の時間を習慣にして、不安になりやすい時間帯を先回りで埋める。

帰宅願望は夕方に強く出やすいことが知られており、「夕暮れ症候群」と呼ばれることもあります。

日が傾く・周囲が慌ただしくなる・疲れが出る、という条件が重なる時間帯だからです。

毎日同じ時間に出やすいなら、その30分前からの関わりを組み立てるのがコツです。

場面別③入浴・介護を拒否されたら

場面別③入浴・介護拒否

入浴拒否・介護拒否も、理由の箱を探すことから始めます。

脱ぐのが寒い、恥ずかしい、浴室が怖い、そもそも「入る必要」を感じていない。

体調が悪くて億劫なだけ、ということもあります。

よくある失敗は、正面から説得を重ねることです。

「入らないと不潔ですよ」という説得は、本人には「よく分からないことを強要される」体験になります。

効果的なのは、誘い方と選択肢を変えることです。

「お風呂に入りましょう」ではなく「温かいタオルで手を拭きませんか」から始める。

「今すぐ」ではなく「お昼の後にしますか、おやつの前にしますか」と本人に選んでもらう。

信頼関係のある職員に交代する、日や時間を変える、というのも立派な対応です。

拒否が続くときは、無理強いせず「今日は足浴だけ」と部分で成立させます。

現場でよく効くのは、その方の生活歴に合わせた誘い方です。

お風呂好きだった方なら「一番風呂が空きましたよ」、銭湯世代の方なら「湯加減を見てもらえますか」。

その人の人生の文脈に沿った言葉は、説得よりずっと強い力を持ちます。

清潔の維持は大事ですが、1回の入浴より信頼関係のほうがずっと大事です。

信頼が残っていれば、明日また誘えます。

やってはいけないNG対応

やってはいけないNG対応

最後に、良かれと思ってやりがちなNG対応を確認します。

NG1:間違いを正面から訂正する

「今日はもう食べましたよ」「ここがあなたの家ですよ」。

正しい情報でも、本人には「否定された」記憶だけが残ります。

NG2:子ども扱いの言葉遣い

赤ちゃん言葉やあだ名での呼びかけは、尊厳を削り、BPSDを悪化させる要因になります。

NG3:行動を力や叱責で止める

腕をつかんで止める、大きな声で叱る。

その場は止まっても、恐怖の記憶が残り、次からの拒否や敵意が強くなります。

NG4:できることまで先回りして奪う

時間がかかっても、本人ができることは本人にやってもらう。

役割と自信を奪わないことが、長期的にはいちばんのBPSD予防です。

なお、身体を縛る・部屋に閉じ込めるなどの身体拘束は、法令上、原則として禁止されています。

緊急やむを得ない場合の例外には厳格な要件と手続きがあり、現場の判断で気軽に行ってよいものではありません。

NG対応の多くは、忙しさと焦りから生まれます。

だからこそ、個人の頑張りではなく、次章のチームでの支え合いが欠かせません。

一人で抱えない|記録・チーム・専門職につなぐ

一人で抱えないチームで支える

認知症ケアは、一人の名人芸では続きません。

まず、うまくいった対応こそ記録に残してください。

「夕方の帰宅願望、○○の話題で落ち着かれた」という一行が、チーム全員の武器になります。

拒否や妄想が出たときの状況(時間帯・直前の出来事・体調)を記録すると、原因のパターンが見えてきます。

次に、対応がうまくいかないことを恥じないでください。

相性や体調で結果が変わるのが認知症ケアです。

「今日は私では落ち着かないので代わってもらえますか」と言えるチームが、いちばん強いチームです。

そして、現場の工夫で改善しないBPSDは、医療につなぎます。

痛み・便秘・脱水・薬の影響など、体の要因が隠れていることは珍しくありません。

看護師・医師・ケアマネジャーへの相談は、ケアの敗北ではなく、ケアの一部です。

ご家族との情報共有も、チームケアの重要な一部です。

施設での対応がうまくいった工夫を家族に伝えると、在宅での関わりにも活き、家族の安心にもつながります。

本人を支える輪の中に、自分も支えられる側として入っておくこと。

それが、認知症ケアを長く続けるための最後の基本です。

よくある質問

よくある質問

BPSDとは何の略ですか?

認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)の略です。妄想・幻覚・帰宅願望・介護拒否・徘徊・暴言などが含まれ、記憶障害などの中核症状とは区別して考えます。

BPSDはすべての認知症の人に出ますか?

いいえ。中核症状は認知症であれば誰にでも現れますが、BPSDは体調・環境・人間関係などの影響で出方が大きく変わります。裏を返せば、関わり方や環境を整えることで軽くできる可能性がある症状です。

「嘘も方便」の対応は許されますか?

本人を安心させるための話の合わせ方は、現場では広く使われています。ただし本人の尊厳を損なうごまかしや、その場しのぎの約束の乱用は信頼関係を壊します。「訂正より安心を優先する」という原則の範囲で使うのが目安です。

対応してもBPSDが改善しないときは?

痛みや便秘・脱水などの体調要因、薬の影響が隠れていることがあります。看護師や医師、ケアマネジャーに相談し、医療面からの評価につなげてください。現場の対応だけで抱え込まないことが大切です。

家族から「対応が甘い」と言われて板挟みです。どうすれば?

ご家族は不安と罪悪感を抱えていることが多く、その気持ちの受け止めが先決です。ケアの根拠(なぜ否定しない対応をするのか)を相談員やケアマネと一緒に説明する場を作ると、理解を得やすくなります。

認知症ケアをもっと体系的に学ぶにはどうすればいいですか?

職場内の認知症ケア研修や、自治体・事業者団体の研修が最初の一歩です。資格として学びたい場合は、認知症介助士や認知症ケア専門士などの選択肢があります。日々の実践を記録して振り返ることが、どの学び方でも土台になります。

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まとめ|「困った行動」は「困っている合図」

まとめ

認知症ケアの基本は、中核症状とBPSDを分けて考えることです。

BPSDは本人なりの理由がある反応であり、原因を探して取り除くことが対応の軸になります。

否定しない・急がせない・環境を整える、の3原則は、どの場面にも共通する土台です。

もの盗られ妄想には「否定せず一緒に探す」、帰宅願望には「同じ方向を向いて役割につなぐ」、入浴拒否には「誘い方と選択肢を変える」。

うまくいった対応も、いかなかった対応も、記録してチームで共有すれば財産になります。

一人で抱え込まないことが、利用者にとっても自分にとっても、いちばんのケアです。

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